先週は、令和5(2023)年の啓蟄の候すぎの週末[a]2011年に観測史上最大規模の東北地方太平洋沖地震が発生した日。旧暦だと初代天皇である神武天皇が没した日。甲斐武田家が滅亡した日。に六年前に巡ってきた城跡周辺を再訪したあと帰宅する際に時間があったので上野で途中下車し、先月に続いて東京国立博物館を観覧して来た。今回も本館で開催されている総合文化展のいくつかを観覧してきた:
後者の展示は先月とほぼ同じ。今回は勢州村正《セイシュウ・ムラマサ》や重文指定の刀剣などを、またまた閉館近くまで観覧してきた 。
まずは甲冑から。こちらは白糸威二枚胴具足《シロイト・オドシ・ニマイ・ドウグソク》。江戸時代(17世紀)。尾張徳川家初代藩主の徳川義直《トクガワ・ヨシナオ》が大坂の陣で携帯したと伝わる具足:
胴と袖は銀箔押の札《サネ》を白糸で威しており、現在はくすんでいるが、往時は白銀に輝いていただろうとのこと。兜は通天冠《ツウテンカン》[b]中国の冠。を模した変わり兜で、前立は仏具の如意形《ニョイナリ》。
そして紺色縅二枚胴具足《コンイロ・オドシ・ニマイ・ドウグソク》。江戸時代。大名茶人・小堀遠州と呼ばれた小堀政一《コボリ・マサカズ》所用と伝わる具足:
全体の縅毛を紺色で統一し、要所には小堀家の家紋である花輪違紋をあしらった飾金具を配している。兜は輪貫《ワヌキ》の前立を持つ尖り帽子のような変わり兜。
今回はいろいろな変わり兜が展示されていたが、その中からこちらは紫糸素懸威烏帽子形桐紋兜《ムラサキイト・スガケオドシ・エボシナリ・キリモンノ・カブト》。江戸時代。これは烏帽子の形を鉄で模した変わり兜:
側面には切鉄と銀の布目象嵌《ヌノメ・ゾウガン》による大きな桐紋を飾り、正面や裾にも桐紋を打っている。六段下りの錣《シコロ》は紫糸の素懸威。豊臣秀吉の兜と伝わる。
ここからは刀剣。基本的に前回とほとんど展示品は替わっていなかったが、そんな中で重文のものを中心に紹介する 。
黒漆銀銅蛭巻太刀《クロウルシ・ギンドウ・ヒルマキノ・タチ》(重要文化財)。南北朝時代:
柄《ツカ》や鞘《サヤ》などは補強と装飾を兼ねて、帯状の金属板で螺旋状に巻く蛭巻《ヒルマキ》と云う技法[c]蛭巻太刀は武士に愛好された刀装の一種。を使っている。南朝の武将、南部政長《ナンブ・マサナガ》[d]新田義貞が倒幕のために挙兵した際、正長もこれに呼応して馳せ参じて武功を挙げた。恩賞は陸奥国の一郡。の所用と伝えられる。
青漆銀流水文半太刀大小《セイシツ・ギンリュウスイモン・ハンダチノ・ダイショウ》の一腰。安土桃山〜江戸時代:
半太刀とは刀装の一種で、太刀のように刃を下にして[e]通常、刀は刃を上にして腰帯に指す。、刀と同様、鞘に栗形《クリガタ》や返角《カエリヅノ》を設けたもの。この二腰は、美濃国・苗木城主の遠山友政《トオヤマ・トモマサ》[f]美濃国苗木藩の初代藩主。父は遠山友忠《トオヤマ・トモタダ》、母は織田信長の姪。の差料と伝わる。青漆塗の鞘に二条の曲線形の銀板を貼って流水の模様を表現している。
太刀・古備前吉包《タチ・コビゼン・ヨシカネ》(重要文化財)。平安〜鎌倉時代。「古備前」とは備前国で平安末期から鎌倉初期に活躍した刀工たちの総称で、吉包はその一人:
刀身は腰反りが高く、よく鍛えられた板目の地鉄に、高さの揃った小乱の刃文を焼き入れている。
ここからは一階の「刀剣]コーナーから。
まずは有名な太刀・豊後行平《タチ・ブンゴノクニユキヒラ》(重要文化財)。平安〜鎌倉時代。行平は平安時代から豊後国で活躍した刀工の一人:
刀身はやや細身で、板目《イタメ》の地鉄《ジガネ》に「浅くのたれた」小乱《コミダレ》の刃文を焼入れ腰元で焼落としている。
次は太刀・古青江貞次《タチ・コアオエ・サダツグ》(重要文化財)。鎌倉時代。備中国青江を拠点とした青江派のうち、平安末期から鎌倉初期に活躍した古青江と呼ばれる刀工の代表がが貞次:
精美な小板目《コイタメ》の地鉄に、小乱を交えた直刃《スグハ》の刃文を焼入れている。
こちらは太刀・長船長光《タチ・オサフネミツタダ》(重要文化財)。鎌倉時代。備中国長船を拠点に、日本最大の刀工流派として繁栄した長船派:
よく鍛えられた板目の地鉄に乱映りが立ち、高低のある丁子に互の目を交えた刃文を焼き入れており、金筋など刃中の働きも豊か。
刀・津田助広《カタナ・ツダスケヒロ》(重要文化財)。江戸時代。大坂で作刀した名工で、寄せては返す大波をかたどった濤瀾刃《トウランバ》と云われる独創的な刃文を作り出した:
小板目の精美な地鉄に、明るく冴えた濤瀾刃を焼入れている。
こちらもよく知られた、刀・勢州村正《カタナ・セイシュウ・ムラマサ》。室町時代。村正は伊勢国桑名の名工で、その作刀は業物《ワザモノ》として知られ、江戸時代には徳川家を祟る妖刀伝説が生まれた:
やや流れた板目の地鉄、低く焼き入れた乱刃《ミダレバ》の刃文、たなご腹形の茎《ナカゴ》などが特徴。
最後は刀・小野繁慶《カタナ・オノハンケイ》(重要文化財)。江戸時代。繁慶は徳川家康・秀忠に仕えた鉄砲鍛冶で作刀もした:
以上、東京国立博物館蔵の作品は「e國寳」や「文化遺産オンライン」(ともに文化庁)のサイトでも閲覧できる 。
ここからはオマケ。
千葉県松戸市にあった巨大な平城の外郭跡を攻めていた時に観たマンホール蓋:
この日は久しぶりに晴天の休日で、沿道に咲いていた梅がとても映えていた :
こちらは上野公園でみた梅:
と云うことで、この時のフォト集はこちら:
2023年3月 東京国立博物館 (フォト集)